墓じまいを検討する人が毎年増えています。理由は、「お墓の継承者がいない」「お墓が遠方にあり維持管理が難しい」などが挙げられます。それと同時に、「墓じまいしたら、ご先祖様に失礼じゃないかな」「墓じまいをすると災いが起きるのでは?」と不安な気持ちになる人もいるかと思います。
そこでこの記事では、墓じまいに関するスピリチュアルをていねいに紐解いていきます。墓じまいに対する恐れや不安な気持ちがやわらぎ、前向きに墓じまいを検討できるでしょう。
墓じまいとは
墓じまいとは、現在あるお墓を撤去し更地に戻し、土地の使用権をお墓の管理者に返還することです。取り出されたご遺骨は新しい供養先へ納める必要があります。現代は平行して、お墓を別の場所に作ることも多いです。
墓じまいをスピリチュアルな視点から考える
スピリチュアルな視点から見ると、お墓には先祖の魂は入っていません。そのため、「墓じまいをすると罰が当たる」「ご先祖様が怒る」ことはないので安心してください。お墓は現世と死後の世界をつなぐ目印で、単なる物体にしかすぎません。よくお墓に入るという言い方をしますが、魂はお墓には入らずあの世に行くのです。お墓は故人への思いを届けやすくするためにあります。目に見えるモノがあったほうが気持ちを込めやすいですよね。また、ここに故人がいるのだなとイメージできます。
霊魂【れいこん】
一般的は、身体の中に存在し、死後はそこから離れていくと信じられている見る事の出来ない存在と認識されています。
〈霊〉〈魂〉〈命〉〈心〉とも近い存在です。
国や地域によって捉え方に差異があります。
インドでは[s:jīva(ジーヴァ)]という言葉が近い意味を持ち、身体を支え、生き物を生かす命というような原義があります。
中国では、霊魂に関する事柄は〈魂魄(こんぱく)〉や〈神(しん)〉という考え方が類似します。
日本においては、仏教受容後に亡き両親や身内を〈先霊〉として扱い供養を行う儀礼が増えてきました。盂蘭盆会などの先祖供養が行われるなかで、次第に伝統的な祖霊観と仏教の成仏観が重なっていきました。
墓じまいをしたら不幸になる?
墓じまいをして不幸になることはありません。そもそも科学的根拠もなく、迷信にしかすぎません。家族に墓じまいの相談をして、「墓じまいをしたら不幸になるよ」なんて言われたら気になりますよね。墓じまいの言葉自体にネガティブなイメージを持っていると思考もネガティブになります。墓をしまうと聞くと、ご先祖様を粗末にしているように感じますよね。しかし、墓じまいは今後のお墓の管理を真剣に向き合うよい機会です。
墓じまいをしたら祟られる?
墓じまいをして祟られることはありません。大前提として、仏教の考えでは亡くなった人が現世の人を祟ることはないのです。そもそも祟りの意味は、神仏や怨霊などの目に見えない存在が、人間に災いを与える超自然現象を指します。人は悪いことや不運が続いたとき、スピリチュアルなものに結びつける思考のクセがあります。冷静になって考えてみてください。自分の子孫に不幸になってほしいと祟る先祖がいるのでしょうか。そんなふうに願っている先祖はいませんよね。元気に、幸せに暮らしてほしいと思っているはずです。
日本の祖霊信仰は仏教が伝わる前からあった
日本は古来より祖先の霊を崇拝する風習があります。起源は縄文時代で稲作を始めた先祖への感謝の気持ちが、先祖を祀る祖霊信仰として広がっていきました。こうした歴史が日本人には色濃くDNAに刻み込まれているため、先祖の祟りと騒ぎ立ててしまうのでしょう。
墓じまいをしたら体調不良になるって本当?
墓じまいをしたから体調不良になったわけでも、ご先祖様が怒っているわけでもありません。墓じまいは、想像以上に精神的・体力的にも身体に負担がかかります。なぜなら、家族や疎遠の親戚と話し合ったり、お墓の管理者に相談をしたり、慣れない手続きがあるからです。慣れないことをすれば疲れるのが当たり前で、スピリチュアルに起因するものではありません。
お墓を放置することで起こる弊害
お墓を放置すると、雑草が生い茂り荒れ果てた墓地になってしまいます。また、近年では地震や大豪雨の被害で墓地の崩落・倒壊などが発生しているのが現状です。当然、無縁墓は長期間放置されることになります。放置され荒れ果てた自分のお墓を見て、ご先祖様はどう思うでしょうか。きっと、とても悲しい気持ちになると思います。そうならないためにも、家族や親戚と十分に話し合い納得のいく墓じまいを進めましょう。
出典:総務省(墓地行政に関する調査-公営墓地における無縁墳墓を中心として-<結果に基づく通知>)
後悔しないための墓じまい|事前準備5選
「墓じまいって何から始めればいいかわからない」「手続きが複雑でよくわからない」そう思う人が多いかと思います。人はわからないと立ち止まってしまいます。まずは、何がわからないのかを整理し、少しずつ準備していきましょう。
- お墓の継承者を確認する
- 家族、親戚と十分に話し合う
- 寺院・霊園に墓じまいの旨を相談する
- 取り出す遺骨の数を確認する
- 新たな納骨先を決める
1.お墓の継承者を確認する
お墓の継承者が誰なのかを確認しましょう。継承者のことを祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)と呼びます。祭祀承継者は、祭祀財産を継承する者を指します。祭祀財産には、家系図、位牌(いはい)、墓石などがあります。なお、祭祀財産は相続財産とは別物です。
- お墓を維持・管理する
- お墓の所有権、使用権を持つ
- 法要を主宰する
2.家族、親戚と十分に話し合う
墓じまいを進める際に、家族、親戚と十分に話し合うことが最も重要です。自分だけの考えで進めず、家族や親戚の話をよく聞きながら進めていきましょう。お墓への価値観、ライフスタイルの違いを理解することで落ち着いて話し合いができます。それぞれが納得のいく話し合いをすることで、後のトラブルを防ぎます。
話し合いの2つの目的
1つめは、結論を明確化することです。現段階での問題点を明らかにし、結論への道筋を立てます。
2つめは、家族や親戚の合意をつくることです。お墓への思いや価値観はそれぞれ違います。様々な意見を出し合ったり、深堀したりして最終的な意見をまとめます。
家族や親戚が一堂に会する機会です。話し合いの目的を意識するだけで、みんなが納得する結論が出せるでしょう。
- 相手の意見を最後まで聞く
- 話の論点を常に考える
- 発言の前に、賛成か反対かを明確にする
- 簡潔に伝わりやすい言葉で話す
3.寺院・霊園に墓じまいの旨を相談する
早い段階で、寺院・霊園に墓じまいの旨を相談しましょう。今までお世話になった寺院・霊園の管理者に、墓じまいをするに至った経緯を説明します。そうすることで、誠意と感謝の姿勢を伝えることができるでしょう。相手に配慮した言動が円滑な墓じまいにつながります。
以下の3つのステップを参考に、会話をイメージすると実際の場面でも役立ちますよ。
- 墓じまいしたい理由を整理し、説明できるようにする
- 対面して相談する姿勢でお話しする
- お世話になった感謝の気持ちを伝えてから本題に入る
4.取り出すご遺骨の数を確認する
現在あるお墓のご遺骨の数を確認しましょう。3代(50年)以上続くお墓は、関係者が10名を超えることが多いです。お墓の引っ越し(改葬)には、ご遺骨の数だけ「改葬許可証」が必要になります。改葬許可証とは、今あるお墓から新しい納骨先へご遺骨を移動する際に使用します。
- 改葬許可申請書
- 受入証明書
- 埋葬許可証
5.新たな納骨先を決める
取り出したご遺骨を供養する方法を決めます。ご遺骨を勝手に処分したり、廃棄したりすることは法律(刑法)で禁じられています。
(死体損壊等)
第百九十条死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。出典:e-Gov法令検索
そのため、新しい納骨先を事前に家族や親戚と話し合いましょう。主な納骨先は以下の7つです。
- 一般墓 :遠方に住む人が、自宅近くに新しいお墓を建て納骨する
- 永代供養墓:寺院や霊園が遺族の代わりに、お墓の維持管理をする
- 樹木葬 :樹木の周りに骨壺を埋葬する
- 納骨堂 :屋内施設の決められたスペースに骨壺を収蔵する
- 合葬墓 :複数人のご遺骨を一カ所に埋葬する
- 散骨 :ご遺骨を粉砕し、海や山にまく
- 手元供養 :自宅でご遺骨を保管したり、遺灰を小瓶やペンダントに納める
まとめ|故人を思う気持ちが供養になる
今回は墓じまいにまつわる迷信をスピリチュアルな視点から考察しました。墓じまいは罰当たりなことでも、不幸になることもありません。むしろ、祖先やお墓の継承者のことを考えています。
不安は恐れでもあり、人は言葉で説明できない現象をスピリチュアルと結びつけようとします。墓じまいする後ろめたさ、申し訳なさが恐れの感情となって表れるのです。本気で供養したいと思えば、極論お墓は必要ありません。故人を忘れず思う気持ちがあれば、それ自体が供養となります。
とはいえ、お墓に対する価値観、宗教の違い、人の持つ悩みはそれぞれ違います。家族や親戚とよく話し合いながら墓じまい進めていきましょう。