遺品整理すると相続放棄できないの?注意点やトラブル防止の方法と例外的ケースも紹介

70代断捨離終活

相続放棄を考えている人に注意していただきたいのは、基本的に相続放棄をすると遺品整理はできません。これをしてしまうと、被相続人(故人)の財産を処分したため、相続放棄ができなくなるのです。しかし、例外のケースもあるので、遺品整理と相続放棄には非常に複雑な関連性があります。

ここでは遺品整理の相続放棄について、注意点やトラブル防止方法と例外的ケースもご紹介していきましょう。

こんな人におすすめ
  • 相続放棄を検討中だが残したい遺品もあり放棄を迷っている
  • 相続放棄の際に気を付けるべく注意点を知りたい
  • 相続放棄しても遺品整理できるケースを知っておきたい
目次

遺品整理と相続放棄の関係性

故人が多額の負債を抱えていたなどの理由で、相続放棄を検討する方は多くいます。相続放棄すれば、借金などの負債を引き継ぐ責務はないからでしょう。まずは、遺品整理と相続放棄の基本とメリットや手続きの仕方、遺品整理が相続放棄にどのような影響を与えるかなどを解説していきます。

遺品整理の基本と相続放棄のメリット

【遺品整理の基本】

遺品整理の基本的な意味は、故人が生前所有していた持ち物や家財などを整理する作業のことです。生活用品から趣味で集めていたコレクター品や家族との思い出の品のほか、現金や通帳、株式などの有価証券など貴重且つ重要書類すべての所有物を含めて整理することを指します。

【相続放棄のメリット】

相続放棄をすることのメリットは冒頭でも触れましたが、例として故人が多額の借金などの負債があった場合、それを引き継ぐ責務がなくなるので、故人に代わって借金返済に追われるなどの負担がかからなくなるのはメリットでしょう。

そのほかには、単に遺品整理で長い時間を要し複数人の手を借りて、大量の遺品を整理する負担がないことです。大切な家族の遺品である以上、一概にメリットとも言えないこともあります。相続放棄のメリットという観点からいうと、物理的な負担がないという意味です。

仕事や介護などで遺品整理の時間を避けないといった場合も、相続放棄はメリットでしょう。

相続放棄の基本的な手続き

相続放棄には、既定の手続きをする必要があります。まず、相続放棄するには被相続人(故人)が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内です。この期間に、裁判所で申述書を提出する必要があります。この期間を過ぎると、規定通り相続人として遺産を相続する義務が発生するので注意が必要です。

相続放棄の手続きでするべきステップは、6つあります。

  1. 費用の準備
  2. 書類の用意
  3. 財産調査(プラス・マイナス両面から)
  4. 家庭裁判所へ相続放棄の申し立て(相続人もしくは弁護士)
  5. 相続放棄申照会書が届く(必要事項を記入し家庭裁判所へ再送)
  6. 相続放棄受理通知書が届く(相続放棄の正式決定)

相続放棄の費用は、自分で行う場合は3,000円~5,000円程度です。内訳は、必要書類の取り寄せ費用と手続きの際の郵送代・印紙代になります。手続き自体は、それほど費用がかかるものではありません。家庭裁判所が管轄している地域は、裁判所ホームページでご確認ください。

相続放棄照会書は、申し立て後の約10日後に送付されます。照会書には、申述内容が真意に基づいているか「単純承認」に当たる内容がないかの確認事項が記載されていますので、確認しておきましょう。

申述が通れば照会書の再送後、約10日ほどで相続放棄受理通知書が届くので、これで完了です。

遺品整理が相続放棄に与える影響

相続放棄を検討している間は、その前後で遺品整理はしてはいけません。相続放棄は、故人の家財や遺産を相続するその責務の一切を放棄するということです。遺品整理をしてしまうと、相続の意思がある(単純承認)とみなされ家庭裁判所に申し立てしても受理されません。

一度、受理されていたとしても遺品整理したことが分かれば、その時点で相続放棄が無効となってしまうのです。特に以下の場合は、法令(法定単純承認)により相続放棄できません。

  • 相続財産の処分行為(民法921条1号)
  • 相続財産の隠匿・消費(民法921条3号)

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。(民法|e-Gov法令検索

なお、形見分けとして手紙や資産価値がない遺品の処分では問題ありません。いずれにしても、少しでも相続放棄を検討するなら、一人の判断ではなくほかの相続人とよく相談をし、慎重に慎重を重ねて結論を出しましょう。

故人が亡くなった後、相続人は相続放棄以外に「単純承認」と「限定承認」が選べるので、覚えておいてください。

単純承認限定承認相続放棄
プラス(所有する遺産)とマイナス(借金などの遺産)などすべての遺産を引き継ぐ。プラスとマイナスの遺産を引き継ぐが、マイナス遺産の弁済はプラス遺産の限度内に留保する。すべての遺産を引き継がない。

遺品整理を行う際の注意点

基本的には、相続放棄をすると遺品整理はできません。一度、放棄すると取り消すことはできなくなります。ただし、管理義務は残ります。

管理義務とは?

相続放棄しても土地や畑などの所有があった場合には、新たな相続人が見付かるまではそれらの財産を管理する義務は残ります。

例として、以下の場合で見てみましょう。

親(被相続人)が死亡し、子である自分が相続放棄した場合

自分の子供(孫)に相続権利が移る。しかし、孫がまだ小さい場合は管理ができないので、孫が管理できるようになるまで、子である自分が管理する義務がある。

上記に踏まえて、自分に子供がいない(相続人がいない)場合は、相続人が見付かるまで自分に管理義務が残ります。

家屋の屋根が台風などの強風で飛ばされ近隣に迷惑がかかったなどの場合は、すぐ屋根の補修を業者に依頼するなどの管理義務があるということです。

処分してはいけない遺品とその理由

相続放棄すると管理義務が残ること以外は、遺品整理ができなくなることはお話しました。では、主に処分してはいけない遺品とは何かと、その理由を解説しましょう。

【処分してはいけない主な遺品】

  • 被相続人の預貯金の引き出し、解約、名義変更
  • 賃貸物件の解約
  • 車の処分(価値次第)
  • 家具、家電などの遺品整理(価値次第)
  • 被相続人の借金や税金の支払い
  • 入院費の支払い
  • 携帯電話の解約
  • 不動産の解体

【処分してはいけない主な理由】

上記、いずれの場合も、その行為をしてしまうと「単純承認」と見なされるので、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

  • 被相続人の預貯金の引き出し、解約、名義変更

被相続人のお金は、相続放棄したら使ってはいけません。使っていない場合は、すぐ被相続人の口座に戻すか、もし口座が凍結されて入金できなくなっている場合は、別に保管して一切使わないようにしてください。

  • 賃貸物件の解約

無駄な賃料の発生を防ぐためとすれば致し方ない部分もありますが、後に問題が起こる可能性も否めません。大家さんや管理会社から家賃滞納などで、一方的に解約された場合はこちらは処分行為はしていないので、単純承認には当たらないと思われます。

  • 車の処分(価値次第)

車は相続財産に当たります。そのため、相続放棄したら車の処分は基本できません。しかし、車に資産価値がない場合は、処分とはいえないでしょう。ただし、この判断は自分では難しいものですので、弁護士や複数業者から査定書を取得しておくと安心です。

  • 家具、家電などの遺品整理(価値次第)

故人の家にあるものは基本、すべて遺品になるので、処分すると相続を承認したとみなされてしまいます。資産価値がない場合は、処分とはみなされない可能性もありますが、これも車の処分と同じく判断は難しいので、弁護士や複数業者で査定書を取得してください。

  • 被相続人の借金や税金の支払い

こちらは相続財産の中から支払いをしてしまうと、処分したとして相続を承認したとみなされる可能性があります。ただし、支払い期限が来ているものの支払いは「保存行為」として処分とは見なされない可能性もありますが、前述したように相続財産から支払いをしてしまうと処分行為と見なされます。

どうしても支払う必要が生じた場合には、相続財産ではなく相続人本人の資産から支払うようにしましょう。

  • 入院費の支払い

故人が入院していた病院から入院費の請求書が来た場合も、相続財産からではなく相続人本人の資産から支払ってください。被相続人の入院費の保証人になっていた場合や、日常家事責務として連帯責任を負う場合は、相続放棄をしても支払う義務がある場合があります。

(民法761条)

(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条
 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

  • 携帯電話の解約

故人が使用していた携帯電話は、家賃と同様、放っておくと毎月の料金が発生します。そのため、使用していない物の料金の支払いを避けるために、解約を考える人は多いでしょう。それ自体は、保存行為として認められる可能性もあります。

ただし、これには明確な基準がありません。そのため、相続の手続きがすべて終了するまでは、そのまま置いておくほうが無難です。

  • 不動産の解体

例えば、実家の家屋を管理するのが困難なため、相続放棄した場合でお話します。この場合、相続放棄したら例え建物が老朽化して解体の必要性が出てきても、相続放棄したら解体はできません。解体した時点で、相続を承認したことになります。

解体ではなく、例えば建物の屋根やブロック塀の補修をするといった場合は「保存行為」に当たるので、相続放棄前であっても問題にはなりません。

固定資産税の滞納分があった場合でも、支払わなくても問題はないので覚えておきましょう。

遺族間のトラブルを避けるための対策

相続に関することは大事なことなので、どのような場合でも必ず遺族間で入念な話し合いをする必要があります。これを怠ると、後に遺族間のトラブルに発展するからです。

こうしたトラブルを回避するためにも、以下の対策を取っておきましょう。

  • 相続放棄は撤回できない
  • 相続期限は3ヶ月以内
  • 専門の遺品整理業者に依頼する

【相続放棄は撤回できない】

相続放棄は、一度放棄の申請をして受理されると撤回できなくなります。これは、他の相続人の権利を守るために相続に関する問題を早く解決する目的があるためです。

ただし、「騙されて相続放棄した」「判断能力がない人が相続放棄した」などの場合は、相続放棄の意思がなかったと証明できれば撤回できる可能性はあります。

しかし、これは非常に難しく証明するのも困難と思われるため、そうあるケースではありません。そのため基本の、相続放棄は取り消せないことをしっかり理解しておきましょう。

【相続期限は3ヶ月以内】

相続放棄をするには、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内、これはこの期間に自分が相続開始されるからです。そのままにしておくと、故人の財産プラスもマイナスも一切を相続する義務が生じます。放棄する場合は、この3ヶ月の間に家庭裁判所へ相続放棄の申述を出します。

しかし、この場合も親族に断りなしに勝手に相続放棄は危険です。遺族間でトラブルになりますので注意しましょう。

【専門の遺品整理業者に依頼する】

遺品整理は、専門の遺品整理業者に依頼することをおすすめします。遺品整理が専門なので、法的知識によって安全且つ敏速に対応してくれるので、遺族間でのトラブルもなく安心です。

慣れていないことに勝手な判断で遺品を処分してしまうと、遺族間でのトラブルの原因になります。専門の遺品整理業者なら、処分してはいけない遺品を的確に仕分けしてくれますので、間違いがなくトラブルも防ぐことができるのです。

相続放棄と遺品整理における例外的なケース

これまで、遺品整理は相続放棄すると基本的にできない、また遺品整理してしまうと処分行為に当たるため相続放棄しても取り消される可能性があることはお話してきました。

しかし、これには例外的なケースもあります。例外的とは、相続放棄しても遺品整理ができるケースのことです。

財産の管理義務がある場合

こちらは注意点でもお話しましたが、相続放棄をしても財産の管理義務がある場合は遺品整理をする必要があります。これは、財産相続管理人や別に相続人が選任されてない場合に、相続放棄した人に管理義務が発生するのです。

財産管理人が決まるまでは、相続放棄しても管理義務はあるので、建物の清掃や補修などの管理を怠らないように注意する必要があります。

故人が孤独死だった場合

故人が孤独死で亡くなるとほとんどの場合、遺体発見までに月日が経っていることが多いです。そうなると、遺体の腐敗が進み、部屋の床などは体液や腐敗による悪臭などで近隣に迷惑をかけることになります。この場合は、早急に特殊清掃が必要になるので、近隣トラブルを避けるためにも遺品整理業者で特殊清掃を依頼しましょう。

故人が賃貸物件に住んでいた場合

こちらは相続人が連帯保証人になっている場合に、賃貸物件の一切の責任を負うことになります。部屋の明け渡しをするまでの間に、部屋の修繕費用や遺品整理の義務が連帯保証人にあるからです。

遺品整理業者に依頼する際のポイント

ここからは、遺品整理業者に依頼する際のポイントを解説していきます。

  • 信頼できる遺品整理業者の選び方
  • 業者への依頼時に確認すべきこと
  • 処分費用の相場と予算設定

それぞれを詳しく解説するので、参考になさってみてください。

信頼できる遺品整理業者の選び方

遺品整理業者に依頼する際は、悪徳業者の存在もあるため、信頼できる遺品整理業者を選ぶ必要があります。信頼できると確信するためにも、以下の点を重視しておきましょう。

  • 遺品整理士の資格を取得している業者を選ぶ
  • 見積書が明確な業者を選ぶ
  • 作業実績が豊富な業者を選ぶ

【遺品整理士の資格を取得している業者を選ぶ】

遺品整理士の民間資格を取得している作業員が在籍している遺品整理業者を選ぶと、まず間違いありません。資格があるということは、遺品整理における法的な知識を持っているということになるので、安心してお任せできます。

【見積書が明確な業者を選ぶ】

作業にかかる費用はもちろん、追加料金の有無やキャンセル料金なども確認しておきましょう。見積もりの段階で、この辺りの記載が不明瞭だと信頼できないのは明白です。作業を依頼する前の一番重要な段階ですので、分からないことは納得いくまで聞いて、疑問がない状態で依頼することが重要です。

【作業実績が豊富な業者を選ぶ】

遺品整理業者を選ぶ際に、広告やホームページなどで探すことが多いと思います。その際は、必ず作業実績が豊富であることも忘れずに確認しておきましょう。作業実績が豊富であることは、それだけ経験値が高いということです。そのためどのような難しい状況になっても、これまでの経験でどう対応するかの判断が敏速にできます。

【まとめ】遺品整理と相続放棄の基本はしっかり抑えておこう!

今回は、遺品整理すると相続放棄できないのか、注意点やトラブル、例外的ケースなどを解説してきました。相続放棄すると、一見大変な作業から解放されるような気がするかもしれません。

しかし、新たな相続人がいなかったり相続人がまだその責務を受ける年齢でない場合は、その年齢になるまで放棄した人に管理義務が残ります。また遺品整理は人生でそうあることではないため、知識不足と慣れない作業で相続放棄しても遺品の処分をしてしまい、放棄できなくなってしまう危険があるので注意が必要です。

遺品整理と相続放棄のこうした基本をしっかり抑えておけばトラブルも防げます。またトラブルを避けるためにも相続放棄する前に、本当に放棄しても大丈夫か、遺産の把握をしておくようにしましょう。

是非、ご参考になさってみてください。

この記事を書いた人

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