少子高齢化や核家族化、弔いの形の多様化が背景に、年々増加するいわゆる「墓じまい」(改葬)。
厚生労働省の衛生行政報告例によると、2022年度の改葬数(墓じまいの数)は全国で76,662件だった2011年度に比べて151,076件と、倍以上に増加しています。
墓じまいを考えざるを得ない立場に立ち、改葬先や費用の問題、またずっと墓参りを続けてきた親族からの反対など、頭を悩ませている人も少なくないでしょう。
この記事では特に墓じまいに向けた親族の同意について、具体的な方法を考えていきます。
親族の同意なしに墓じまいは法的に可能!
親族の同意なしに墓じまいすることは可能です。
法律的には墓主(お墓と遺骨の所有者)は、親族の同意なしに墓じまいしても問題はありません。
民法897条はこう規定しています。
第1項
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
第2項
前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
(出典:法令リード)
つまり、慣習又は被相続人の指定に従いお墓及び遺骨を相続した祭祀主催者(=墓主※遺産の相続者とは別になります)はその所有権を承継しているため、親族の同意なしに墓じまいを行う権利があるのです。
ただ、遺産の相続者と墓主が別な場合、遺産の相続者が墓主の許可なく墓じまいをすることはできません。
なぜ親族の同意は必要なのか?
精神的な配慮
親族に無断で墓じまいをすすめることによって
- ずっと墓参りしてきた先祖代々の墓に思い入れがある
- お墓がなくなることに抵抗があったりさびしく感じる
などの理由で今のお墓を維持したい親族とトラブルになる可能性は十分に考えられます。
墓じまいをするにはそれぞれの家庭の事情があるからですが、親族から反対意見が出る可能性も十分考慮に入れておかなければなりません。
その後の関係にしこりを残したり、遺骨をめぐって争うようなトラブルを避けるため、十分な話し合いの場を設けることが必要になります。
長年お墓参りをしてきた方たちの思い入れも十分に考慮に入れ、無断で墓じまいを強行しないことが大切です。
そのような反対意見を持つ方たちにはきちんと理由や経緯を説明し、わかってもらえるまで根気強く話し合いの場を設ける必要があります。
できるだけ関係者全員が納得できる妥協点を見つけた上で、墓じまいを行いましょう。
実務的な課題
墓じまいに係る費用は約30万円~200万円とされています。
思ったより費用が掛かり、この費用をだれが負担するかで金銭的なトラブルが発生することもあります。墓じまいに同意していた親族でも金銭的な負担に関してはトラブルになる可能性があるので注意が必要です。
墓じまいはなぜ反対される?
墓じまいへの反対意見は大きく次のようなものが考えられます。
- 先祖への経緯やしきたりを理由とした反対意見
- お参りする場所がなくなることへの抵抗感
- 墓じまいの費用負担について
先祖への敬意やしきたりを理由とした反対意見
- お墓を撤去することへの抵抗感
- ご先祖様の祟りを恐れる人がいる
- 子孫として墓を守るのは当然
現在の墓の管理状況や継承者の見込みの状態を説明し、現在の墓の維持が難しいことを説明します。そして先祖への想いを大切にし、きちんと供養を続けるための新しい供養の形を提案、納得いくまで話し合うのです。
きれいで新しい場所に移り、今よりお墓参りに行けるようになればご先祖様も喜ぶことが理解できれば納得してもらえるでしょう。
お参りする場所がなくなることへの抵抗感
先祖代々の墓がなくなることは、家族の歴史・伝統が途絶え、家が亡くなってしまうように感じる人もいます。
お参り先がなくなるわけではないことを説明し、改葬先について話し合いましょう。例えば、永代供養墓とすれば墓主としての世話を必要とせずに後々まで墓参り場所も残すことができます。
また場所についても親族の住まいから近い場所にするのかなど話し合います。
今までの墓がなくなることがさびしいことは親族に共通した感情です。しかし、管理がしづらい今の場所より適切な管理ができる場所に移して供養したい希望を伝えればわかってもらえるはずです。
墓じまいの費用負担についてのトラブル
誰が墓参りの費用を負担するかでもめることもあります。
お墓に関する権限は墓主(祭祀継承者)が持っているので、墓じまいを行うのは墓主ということになります。わからない場合は墓地管理者に問い合わせればわかります。
墓主のみの負担が無理、ということであれば次のような方法もあります。
- メモリアルローン(葬祭に特化した利子の低いローン)を検討する
- 墓じまいに賛成の親族内で負担を分担する
- 自治体に相談し、墓じまい費用の軽減策が無いか確認する
あくまでも墓じまいの責任は墓主にありますが、全ての費用負担が無理な場合は後でトラブルにならないよう親族内でよく話し合い解決しましょう。
親族の同意を得る手順
事前準備
親族との話し合いの前に話し合いのポイントを整理しておきます。
- 連絡する親族の範囲
- お墓の現在の状態の調査
- 改葬先の候補を考えておく
- 墓じまいにかかる費用や手続きの整理
連絡する親族の範囲
墓じまいする墓に関係するすべての親族に連絡をします。
遠い親戚には相談まではしなくても連絡だけは入れておきます。近い親戚とは同意を得るまで何度もしっかりと話し合いましょう。
お墓の現在の状態の調査
お墓の現在の状態を調査します。
- 管理状態(老朽化など)
- 墓守後継者の見通し(有無)
- 保管されている遺骨の数・詳細(誰が入っているのか)
保管されている遺骨の数は石材店に依頼可能です。その時に撤去費用の見積もりも依頼しておくと良いでしょう。
改葬先の候補を考えておく
改葬先の候補を考えておきます。改葬先によりかなり費用も変わりますし、場所により通いやすさも変わってきます。
一般墓 | 墓石を建て棺に骨壺を納める | 目安200万円程度 (永代供養料と墓石代) |
納骨堂 | 屋内のスペースに収蔵する | 目安30万円程度~ |
樹木葬 | 墓石の代わりに樹木を植える。合葬が多い。 | 目安10万円~20万円程度 |
合葬墓 | 身内ではない他人と一緒に供養される | 目安5万円~10万円程度 |
散骨 | 海上などに粉状にしたお骨を撒く | 目安5万円~30万円程度 |
手元供養 | お骨を手元に保管 | 目安2万円程度~ |
親族皆が通いやすく納得できそうな改葬先を考えておきましょう。
墓じまいにかかる費用や手続きの整理
親族へ説明するために墓じまいにかかる費用や手続きについて整理しておきます。
お墓の撤去費用 | (目安)30万円~50万円 | 1㎡あたり10~20万円 |
行政手続きに係る費用 | (目安)数百円~1,000円 | 役所への提出書類 |
新しい納骨先に係る費用 | (目安)30万円~250万円 | 改葬先の費用 |
離壇料 | (目安)1万円~20万円程度 | お世話になった檀家を抜ける挨拶料 |
開眼供養・閉眼供養 | (目安)各1~5万円 | 新旧墓地での読経に対するお布施 |
考えられる費用や手続きについて具体的に整理しておくことで、理解を得ることや妥協点を探ることが容易になってきます。
どう進める?親族の話し合い
話し合いに臨み下記のようなことに気を付けて進めます。
- 墓じまいの理由についての説明
- 手続きやかかる費用についての説明
- 親族全員に相談する
- 反対意見に対する対応
墓じまいの理由について
あまりお墓参りに行けず管理が出来ていない、承継者の見通しが立たない、など墓じまいの理由を説明し、管理に困っていることを伝えて理解を求めましょう。
手続きやかかる費用についての説明
墓じまいにかかる費用や手続き、考えられる改葬先について説明します。具体的な手続きの流れや費用を説明することで理解が得やすくなります。
親族全員に相談する
墓じまいは決定ではなく、墓主が墓の管理に困った相談事だということを強調します。決定事項だと感じると勝手に決めたと思い込み、反対に合う確率が高くなります。
親族全員の発言の機会を設け、お互いの意見の違いを尊重し納得できる妥協点を探っていきます。
反対意見に対する対応
反対意見が出るのは自然なことです。感情的に反論せず、意見を十分に聞いたうえで今の問題点に対してどうすればよいのか代替案を出してもらいます。
親族全員にも意見を出してもらい同意に向けて話し合います。
難しい場合はお寺に相談してみる
相談しても理解が得られない親族がいる場合はお寺に相談してみる方法もあります。お寺でも墓じまいせざるを得ない事情が分かれば協力してもらえるのではないでしょうか。
思い浮かばなかったような新しい改葬先や供養方法を提案してくれたり、墓じまいが新しい供養方法であることを反対する親族に説明してくれる可能性もあります。
お寺から理解を得られている状況なら親族も同意しやすいのではないでしょうか。
ただ、お寺には今までお世話になってきた感謝の気持ちは必ず伝えることが必要です。
親族全員の同意が得られたら同意書を作成します。親族全員が署名・捺印し正式な同意書として保管をします。親族全員にも写しを送付し、それぞれ保管を依頼します
まとめ
墓じまいは現代に生きる私たちとご先祖様との調和の手段です。決して私たちが守ってきたお墓がなくなってしまうわけではありません。
より私たちがご先祖様をより守っていきやすくするためにご先祖様に移動をお願いするだけなのです。
ご先祖様を敬う気持ちは皆一緒です。反対していた方たちも言葉を尽くしてご先祖様を敬っているための墓じまいだということを理解してもらえれば必ず賛成してくれるはずです。
決して一人で抱え込まず、理解してくれる親族や専門家のサポートも活用しながら、ご自身のペースで進めていきましょう。