墓じまいについて「後悔するのではないか」「縁起が悪いのでは」と不安を感じる方は少なくありません。
しかし実際には、墓じまいは時代の変化に応じた供養の形を考える大切な機会となります。
本記事では、お墓の整理で生じやすい後悔とその対策について詳しく解説します。
理想的な準備の進め方についても解説していますのでご確認ください。
墓じまいは後悔するものなのか?
墓じまいについて、「ご先祖様に申し訳ない」「決断を後で後悔するかもしれない」と不安を感じる方がいます。
しかし、仏教の教えでは故人が祟りをもたらすという考えはないため、供養の場所を整理することに問題はありません。
遺骨を丁寧に新しい場所へ移せば後悔することはないでしょう。
また、お墓の整理を行わずに放置してしまうと、お墓の管理が行き届かなくなり荒廃する可能性があります。
その場合、「無縁墓」として扱われてしまうかもしれませんので注意が必要です。
お墓の放置はリスクをともなう
お墓参りの機会が減少し、管理費の支払いが経済的な負担となってきた場合、お墓の整理を真剣に考えることをおすすめします。
現代の日本では高齢化と少子化が加速しており、お墓の維持管理が困難な状況に直面する方が増加の傾向です。
お墓の継承者が不在のまま管理を怠ったままにすると、墓地の管理者側から「無縁墓」という判断が下されるかもしれません。
最悪の場合には、墓石は取り壊しの対象となり、遺骨は合同埋葬施設への移動を余儀なくされるでしょう。
このような事態を防ぐためにも、管理が難しい状況であっても、お墓を放置することは避けるべきです。
今後の方針について、ご家族でしっかりと話し合いを持つようにしましょう。
墓じまいは正式な手続きが必要
墓じまいは法律で定められた手順に従う必要があり、個人の判断だけでは進められません。
お墓を別の場所へ移動する際には、該当する自治体への改葬許可申請が必須です。
この申請が承認されて、正式な改葬許可証が発行されます。
申請書類の提出には、現在の墓地管理者と移転先の墓地管理者、両方からの承諾を示す署名が必要です。
正式な手順を踏み、安心してお墓の移転を進めるようにしましょう。
墓じまいと改葬は違うものなのか?
墓じまいとは、墓石を取り除いて土地を更地の状態にし、管理者へ返還する一連の流れです。
対して改葬は、正規の手続きを経て、遺骨を新たな供養先へ移動させる行為を意味します。
新しい供養先として人気が高いのは以下のとおりです。
- 永代供養墓
- 納骨堂
- 合祀墓
墓じまいを行う際には、必ず改葬が必要になります。
遺骨の新たな供養先への移動までを含めた一連のプロセスを、墓じまいと捉えることが適切です。
以下に、経済産業省が認可している石材小売業界団体、「全国石製品協同組合」が定義している「墓じまい」について引用しておきます。
「墓じまい」とは、(「墓じまい」の定義)
本来のお墓を移転して建てる(改葬)ための1つのプロセスです。
①既に建っているお墓の閉眼供養(魂抜き)した後、お骨を取り出す。②元のお墓を撤去し更地に戻す、そして、③新しい墓地にお墓を建てる(墓石を移動もしくは新規建立 )、④お骨を納め開眼供養をする。
の一連の流れを改葬と言いますが、「墓じまい」とは、②「元のお墓を撤去し更地に戻す」ことだけを指し、改葬を行う一連のプロセスの1つです。引用元:経済産業省認可 全国石製品協同組合 みんなのお墓「経済産業省認可「全国石製品協同組合」は「墓じまい」に関する公式見解を発表いたしました。[ニュースリリース]
墓じまいで直面する6つの後悔
墓じまいは状況によっては避けられないことですが、実施の際には難しさを感じる方が多くいます。
慎重な判断と手続きが必要な重要な決断であり、後悔を抱く方もおられるでしょう。
以下では、墓じまいで直面する6つの後悔について解説します。
墓じまいで直面する後悔①「親族間の対立」
墓じまいを進める過程で、親族間での意見の食い違いや関係性の悪化が起こることがあります。
主な対立が生じる原因は、以下のとおりです。
トラブルの種類 | 具体的な状況 |
---|---|
費用負担の問題 | 分担金額への不満や反対 |
事後報告による衝突 | 決定後の連絡で生じる不信感 |
次世代との意見相違 | 子世代からの反対意見 |
コミュニケーション不足 | 事前相談なく墓じまいを実施したことで関係悪化 |
法律上、墓じまいを進める権利を有しているのは、お墓と仏壇の継承者である「祭祀継承者」です。
しかし、祭祀継承者が独断で墓じまいを進めることは、親族との関係に深刻な亀裂を生む可能性があります。
特に注意すべきなのは、墓じまいを実施することが大きな決断になる点です。
つまり、一度墓じまいを実施すると、以前のお墓に戻すことはできないということです。
事前の十分なコミュニケーションを通じて、親族からの理解と同意を得るようにしましょう。
墓じまいで直面する後悔②「寺院との対立」
寺院が管理するお墓を墓じまいするケースでは、寺院側との交渉の際にさまざまな問題が発生する可能性があります。
寺院との間で起こりやすい問題は以下のとおりです。
- 承諾拒否の問題:寺院側がお墓の整理を認めない
- 離檀料に関する問題:想定以上の金額を請求される
- 書類発行の問題:埋蔵証明書などの発行を断られる
寺院からすれば、墓じまいによって檀家が少なくなることは経済的な支障を生じさせることになります。
もし、寺院に何も相談せず、墓じまいの報告だけをした場合、寺院側は長年の信頼関係を勝手に壊されたと感じてしまうかもしれません。
寺院と良好な関係を保ち、円滑な墓じまいを実施するためには、以下の点に特に注意が必要です。
- 時間的余裕を持った相談
- 寺院の運営事情への理解
- 誠意を持った対応
丁寧なコミュニケーションを重ね、両者とも納得した上で墓じまいを実施できるようにしましょう。
墓じまいで直面する課題③「複雑な手続き」
墓じまいを進める際に、行政手続きの複雑さや分かりにくさを感じる方が多くいるようです。
特に、次のような点で分かりにくさを感じることが多いとされています。
- 役所での申請方法がわかりにくく、時間がかかった
- 手続きの不備により予定が遅れて遺骨の一時保管が必要になった
墓じまいを実施する場合、遺骨を取り出す必要があり、その際には「改葬許可証」を自治体から発行してもらわなくてはなりません。
さらに、改葬許可証を取得するためには、「埋蔵証明書」「受入証明書」「改葬許可申請書」が必要です。
このように、何種類もの書類を準備する必要があることも、分かりにくさを感じさせている要因のようです。
墓じまいにおける複雑な手続きをスムーズに進めるためには、経験豊富な専門家への相談も有効な選択肢となります。計画的な準備と適切なサポートが受けられるので、手続きによる混乱や遅延を防ぐことが可能です。
墓じまいで直面する課題④「想定外に費用と時間がかかる」
墓じまいにおいて、予算と時間が当初の想定を大幅に超過してしまうケースが多々あります。
費用面で予想外の出費が発生する主な原因は以下のとおりです。
- 予想を上回って遺骨が出てきた
- 撤去工事費用が見積額よりも高額だった
墓じまいの際には、お墓の事前調査を実施し、詳細な見積りを取得することをおすすめします。
墓じまいの標準的な所要期間は6ヶ月〜1年とされていますが、予想以上に時間がかかってしまうことがあります。
時間面で予想外に遅れてしまう原因は以下のとおりです。
- 墓地撤去工事の日程調整や各種解約手続き、行政への申請などが長引いた
- 遺骨の新しい供養先が決まらず、なかなか契約できなかった
- 親族間で合意に至るまでに想像以上の時間がかかった
墓じまいを行う際の複雑な予定を円滑に進めていくためには、十分な準備期間を確保し、親族間での話し合いを丁寧に行うことが重要です。
それに加え、専門家のサポートを受けることで、予想外の事態にも柔軟に対応しつつ、墓じまいを円滑に進めることができます。
墓じまいで直面する後悔⑤「遺骨の新たな供養先の選定」
墓じまいを実施した際、遺骨の新たな供養先の選定には慎重な検討が必要です。
十分な準備期間を設けずに急いで決めてしまうと、取り返しのつかない後悔を生むことがあります。
以下の供養方法には、特に注意が必要ですので、確認しておきましょう。
- 合祀:複数の遺骨と一緒に埋葬するため、一度埋葬すると取り出せなくなる
- 自然葬:海や山で散骨するため、遺骨は完全になくなり、元に戻せなくなる
遺骨の供養方法は一度決定すると、変更が難しい、あるいは不可能な場合があります。
そのため、供養先の選択は親族全員での十分な話し合いを通じて決めるようにしましょう。
親族間で具体的なイメージを共有し、全員が納得できる選択をすることが、後悔のない決断につながります。
墓じまいで後悔を防ぐための5つの具体策
墓じまいを円滑に進めるためには、事前準備と慎重な計画が必要です。
後悔のない決断をするための重要な5つのポイントを解説します。
これらのポイントは当たり前のことに思えますが、非常に重要ですので理解しておいてください。
対策①:お墓の管轄自治体への連絡
墓じまいを始める際の第一歩として、墓地がある地域の自治体へ連絡しましょう。
必要な行政手続きの内容や関連する法律・規制について確認しましょう。
自治体によっては、お墓の整理に関する相談窓口があり、経験豊富な専門家を紹介してもらえる場合もあります。
専門家のサポートを受けることで、複雑な手続きも円滑に進めることが可能です。
対策②:親族や関係者との話し合い
墓じまいを進めるにあたり、家族や関係者との十分な話し合いが円滑な進行の鍵となります。
話し合いでは、整理の目的や費用負担、スケジュール、新たな供養先、遺骨の管理方法などの重要事項を決めましょう。
親族それぞれの考えや要望を聞き取り、特定の人に負担が集中しない公平な役割分担を決めることが大切です。
必要に応じて専門家を交えることで、法規制の理解や具体的な進め方について、アドバイスを得ることができます。
対策③:適切な見積りの確認
墓じまいを実施するにあたり、事前に詳細な見積もりを確認することで、予期せぬ費用の発生を防ぐことが可能です。
実際、墓じまいをしたことがない方が最も懸念するのが「高額な離壇料を請求される」ことだと認識しています。
引用元:PR TIMES 「墓じまい」に関してのアンケート調査を実施
費用は墓地の解約金や新たな供養先の契約金、遺骨の管理費用、専門家への相談料など、多岐にわたります。
費用の総額を事前に把握することで、予算を適切に管理でき、親族間での費用分担も明確になるため、合意形成がしやすくなるでしょう。
また、無駄な支出を防ぎ、円滑に墓じまいを実施できるようになります。
対策④:遺骨の管理方法の決定
墓じまいにおいて、遺骨の管理方法を慎重に検討することが、後悔のない決断につながります。
選択肢は近隣の墓地への改葬、納骨堂の利用、永代供養墓への移動、さらには樹木葬や散骨、手元供養など多様です。
それぞれの方法には長所短所があるため、親族の意見を丁寧に聞き、将来の供養方法についても十分に話し合うようにしましょう。
管理方法は初期段階で決めておくと良いですが、慌てて判断せず、全員が納得できる方法を選ぶことが重要です。
対策⑤:元気なうちに実施することが重要
墓じまいは、体力的にも精神的にも負担の大きい作業のため、元気なうちに着手することをおすすめします。
年齢を重ねてからの実施は、さまざまな場面で負担が増すでしょう。。
健康な状態で取り組むことで、家族との円滑なコミュニケーションができるため、重要な判断も冷静に行えます。
多くの方が「もっと早い時期に始めておけば良かった」と振り返っているため、漠然と「いつかは」と考えるのではなく、早めに行動することをおすすめします。
まとめ
墓じまいは、ご先祖様を大切に供養しながら、新しい時代に合わせた対応を考える重要な行為です。
費用面や手続きの複雑さ、親族間の調整など、さまざまな課題に直面しますが、適切な準備と対策を行うことで、後悔のない決断ができます。
特に重要なのは、早い段階からの取り組みです。
元気なうちに家族で十分な話し合いを持ち、管轄自治体への確認や費用の見積もり、遺骨の新たな供養先の検討など、必要な準備を計画的に進めることをおすすめします。
必要に応じて専門家のサポートを受けることで、より円滑な実施ができるようになるため、検討してみてください。