16万6,686件。これは2023年の改葬(墓じまい)の件数です(衛生行政報告例)。少子高齢化や核家族化の進行を背景に「墓じまい」を検討する方は88,397件だった10年前に比べ倍増しています。
墓じまいとは、遺骨を別の場所に移したり永代供養などした上で墓石を撤去し更地にした墓地を管理者に返還することです。
墓じまいの基本的な流れは以下の通りです:
- 家族・親族に相談する。
- 墓地管理者に相談する
- 石材店に見積もりを依頼する
- 新しい供養先を決める
- 行政手続きをする
- 閉眼供養をする
- 墓石の解体・撤去工事
- 新しい墓地へ納骨
新たな供養スタイルへの移行は現代に即した選択ではありますが、その一方で、親族や墓地管理者とのトラブルも少なくありません。
墓じまいをめぐるトラブルは親族間の意見の対立や寺院との連絡不足による問題も多く、慎重な準備が必要です。 本記事では、上記墓じまいの過程でよくあるトラブル
- 親族間でのトラブル
- 寺院とのトラブル
- 石材店とのトラブル
- その他のトラブル
について、それぞれの対策と防止策までを詳しく解説していきます。
親族間でのトラブルと解決策
墓じまいに抵抗を感じた親族からの反対
長年墓参りをしてきた親族の方から、
- 墓じまいはご先祖様に失礼
- 墓じまいをすると祟りがある
- 墓参りの場所がなくなることが不安
- 墓を受け継いだ者が維持していくのが当然
などの理由で墓じまいを反対することが考えられます。
【解決策】反対されたからと言って感情的にならず冷静に対処しましょう。
まず、反対する理由をじっくり聞き理解するよう努めます。その上で、墓の維持が困難である原因を伝え、墓じまい以外の方法があるかを確認、提案してもらうようにしましょう。
きちんと供養したいという気持ちはどちらも同じです。供養を続ける方法について双方が納得いくまで話し合いをすることが大切になります。
新しい墓の場所をめぐる意見対立
墓がいつもお参りしていた場所からなくなることに寂しさを覚えたり、体力的に新しい改葬先にお参りするのが大変などで親族から反対されるケースがあります。
【解決策】親族を交えて移葬先の再検討を行います。
- 状況が許せば元の墓を維持し分骨した遺骨を改葬先へ
- 改葬先と手元供養に分骨
という方法もあります。
供養方法についての意見対立
納骨堂への移転か、散骨にするかなど、遺骨の最終的な安置場所について意見が分かれることがあります。
【解決策】まず、各選択肢のメリット・デメリットを整理します。故人の意思や生前の意向も確認します。墓主の管理のしやすさを考慮したうえで、再度親族により良い供養方法であることを納得いくまで説明します。
時間がかかっても双方が納得できる供養方法にすることが大切です。
費用負担の分担問題
墓じまいには、墓石解体費用、新たな埋葬先の費用など、予想以上の支出が必要になります。墓じまいする墓主だけで負担しきれない場合にはこの費用負担の配分で揉めることが少なくありません。
【解決策】事前に詳細な見積もりを取得し総費用を明確にしておきます。
墓主がすべての費用を負担できない場合は、あらかじめ親族で負担割合を話し合って決めておき、支払方法や時期について書面で合意書を取り交わしておきます。
- 家族会議を開催し、墓じまいをする事情を明らかにし、理解を求めた上で、各自の意見や事情を丁寧に聞き取る
- 移葬先は親族全員の事情に鑑み十分に話し合う。
- 現在の管理状況や将来の見通しを具体的な数字で示す
- 結論を急がず、十分な検討期間を設ける
など、墓じまいを決めてしまう前に行っておく必要があります。
寺院との間で発生するトラブルと解決策
高額な離壇料の請求
墓じまいをすると今までお世話になっていた寺院から離壇することになり、離壇料の支払いが必要となることがあります。相場は(目安)3万円~20万円程度です。
寺院によって金額は異なり、離壇料が無い場合もありますが、通常開眼供養を含めた離壇料を請求されます。高額な離壇料を請求される理由としては、
- 遺体ごとに~十万円
- 墓の建立からの年月で~百万円
などがよく挙げられるようです。
【解決策】
- 請求金額の内訳を見て、項目ごとに納得できる金額なのか確認する。
- 親族に協力を仰ぐ。
- 金額を寺院と交渉する。提示額で支払できない事情を話して相談してみる。
- 必要に応じて、弁護士や消費生活センターに相談する。
離壇料は支払わないと寺院とトラブルになり墓じまいが進まなくなる可能性があります。
埋蔵証明書は省略できる?
法律では、高額な離檀料を請求され、これを払わないと埋蔵証明書を出さない(現在は改葬許可申請書に埋蔵証明の署名・捺印欄がある場合も多くあるため、その場合は改葬許可申請書への署名・捺印の拒否)と言われた場合には、他の書面(故人の戸籍謄本、除籍謄本など)を提出することにより埋蔵証明書を省略できるとされています。
○墓地、埋葬等に関する法律施行規則 第二条
2 前項の申請書(※)には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 墓地又は納骨堂(以下「墓地等」という。)の管理者の作成した埋葬若しくは埋蔵又は収蔵の事実を証する書面(これにより難い特別の事情のある場合にあつては、市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面)
二 墓地使用者等以外の者にあつては、墓地使用者等の改葬についての承諾書又はこれに対抗することができる裁判の謄本
三 その他市町村長が特に必要と認める書類
(出典:厚生労働省ホームページ)
※「前項の申請書」とは「改葬許可申請書」のことを指しています。
この規定により市町村役場と交渉すれば埋蔵証明書の省略が可能な場合もあるようです。ただ、法律に関する交渉となりますので行政書士などにお任せするほうが確実です。また、市町村により見解が異なる場合があるようですので詳しくは市町村に確認が必要です。
遺骨引き渡しの拒否
墓じまいや離壇料の問題でもめ、寺院から遺骨を引き渡してもらえないこともありえます。
【解決策】
- 電話などでなく直接会い、心を落ち着けて穏便に話し合いをする。
- 事態が変わらなければ、弁護士に相談する。
墓地管理者には前もって墓じまいに至った事情を丁寧に説明し、今までお世話になった感謝を十分に伝えておくことが大切です。
墓地管理者から「埋蔵証明書」、自治体から「改葬許可証」を発行してもらわなければ遺骨の取り出しはできず墓じまいは不可能となります。
スムーズな墓じまいのためには墓地管理者への事前の余裕を持った相談が不可欠です。
石材店とのトラブルと解決策
墓じまい時、墓石の撤去及び墓地を更地にする工事は石材店に依頼します。その石材店ともトラブルが起きる可能性があります。
高額な解体撤去費用の請求
墓石の解体撤去工事の費用は石材店により異なりますが、一般的な相場は1㎡あたり目安で8万円~15万円と言われています。(作業人数や重機の使用有無で変動します。)状況により費用相場が変わるため、まれに高額な請求をする石材店もあるようです。
【解決策】事前に複数の石材店から見積を取り比較検討を行います。ただし、菩提寺により決まった石材店がある場合には選択の余地はありません。
墓石の不法投棄
墓じまいで撤去した墓石は、破砕処理を行い再利用されますが、墓石が不法投棄されているといった場合もあります。
【解決策】マニフェストの提出を求める
石材店が産業廃棄物の処理を依頼するとマニフェストが交付されます。マニフェストは石材店が墓石を正しく処理をした証拠となるのです。
- 複数の業者から詳細な見積もりを取得する
- 見積もり内容の細部まで確認を行い、不明点は質問する
- 追加費用が発生する条件を契約書に明記する
- 実績や口コミを確認し、信頼できる業者を選定する
- 撤去工事後のマニフェストの提出を依頼する
その他のトラブルと解決策
誰だかわからない遺骨が出てきた
古い墓になると、家系図などの資料をあたってもわからない身元不明の遺骨が発見されるケースもあります。
【解決策】墓地管理者に状況を報告、協力を仰いで該当者を調査する一方、読経をしてもらい墓から取り出します。
どうしても遺骨の出所がわからない場合、無縁仏として供養する選択肢があります。供養方法は寺院や専門の業者によって異なりますが、一般的には合同墓地に埋葬され、他の無縁仏と一緒に供養が行われます。
特に管理者がいない場合や、処理に困った場合は、自治体の窓口に相談するのも方法の一つです。自治体によっては無縁仏の処理についてのガイドラインがあることもあります。
事前に墓の内部調査をしておくことが大切です。
事前に内部調査を済ませておくことで余裕を持って対処方法を考えることができます。
トラブル防止のための基本ポイント
今まで解説してきたようなトラブル防止のためのポイントを2つ解説します。
- 事前準備の徹底
- 書面による合意形成
トラブルは未然に防止するに越したことはありません。出来る限り事前に対策を行っておきましょう。
事前準備の徹底
関係者全員での情報共有
墓じまいを検討する段階から、関係する親族全員との情報共有が不可欠です。具体的には以下の項目について、早期に共有を図りましょう。
- 墓じまいを検討する理由と必要性
- 概算費用と負担方法
- 遺骨の移転先の候補
- 今後の供養方法
- スケジュールの見通し
特に遠方に住む親族がいる場合は、オンライン会議ツールを活用するなど、全員が参加できる形での話し合いの場を設けることが重要です。
必要書類の早期準備
墓じまいには多くの書類が必要となります。主な必要書類は以下の通りです。
改葬許可申請書 | 現在の墓のある市町村役場から入手 |
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埋葬許可証 | 現在の墓地管理者が発行(改葬許可申請書に埋葬証明欄がある場合も多い) |
受入証明書 | 改葬先が発行 |
承諾書 | 墓地の名義人と改葬許可申請をする人が異なる場合に必要。書式は市町村役場で入手。 |
改葬許可証 | 上記すべての書類を現在の墓のある市町村役場に提出・申請すると発行される。 |
※この他、申請者の身分証明書の写しが必要な場合もあります。
これらの書類は取得に時間がかかる場合もあるため、早めの準備を心がけましょう。
十分な検討時間の確保
墓じまいは、一度決定すると取り返しがつかない重要な決断です。以下の項目について、十分な検討時間を確保しましょう。
- 各種の供養方法の比較検討
- 複数の業者からの見積もり取得
- 新たな納骨先の下見や情報収集
- 費用の準備期間
- 親族間での合意形成
書面による合意形成
現在の墓地との解約書
今までお世話になった墓地の管理者と契約を解除する書類です。離壇料を請求された場合はそのやりとりも書面で残しておきましょう。
改葬先との契約書
新たに遺骨を移す先と契約する書類です。改葬許可申請の際に受入証明書が必要となるので、そのタイミングで契約を交わすと良いでしょう。
石材店との契約
以下の重要事項については、必ず契約書として書面化しておくことが重要です。
- 工事の範囲と内容
- 料金の内訳と支払条件
- 工期と完了基準
- キャンセル条件
- 保証内容
- トラブル発生時の対応方法
- マニフェストの発行
上記契約書を交わしておかないと、前述したようなトラブルに巻き込まれる原因となります。内容がわかるまで説明を受け、必ず契約書を交わしておきましょう。
親族の同意書
墓じまいでは最初に親族や現在の墓地管理者に墓じまいの理由や改葬先についての説明を行います。その話し合いは議事録として書面に残しておくことがお薦めです。
特にお墓の名義人が亡くなり、祭祀継承者が墓じまいを行う場合は親族と協議した上での「同意書」が必要となります。同意書は名義変更の手続きの際に証明書と提出する場合があるからです。
書面に残すことで双方が確認でき、安心につながります。
後々の親族や墓地管理者とのトラブルを避けるためにも作成し、保管しておきましょう。
困ったときは
墓じまいのトラブルは余裕を持った適切な準備と管理により多くの場合防止が可能です。
予期せぬトラブルで困ったときは下記の相談窓口をご利用ください。
- 消費者生活センター(ホットライン:188又は各居住地別窓口一覧へ)
- 各都道府県の行政相談窓口(全国共通番号:0570-090110 又は各行政相談センターへ)
- 法テラス(サポートダイヤル:0570-078374 又は法テラスホームページへ)
上記のような相談窓口で専門的なアドバイスを受けることができます。
まとめ
墓じまいに関するトラブルは、事前の準備と適切な対応により、多くの場合防ぐことが可能です。特に重要なのは以下の3点です。
- 親族間での十分な話し合いと合意形成
- 信頼できる業者の選定と詳細な契約内容の確認
- 専門家への適切な相談と支援の活用
墓じまいは、故人を偲び、家族の絆を再確認する機会でもあります。トラブルを恐れるあまり決断を躊躇するのではなく、適切な準備と対応で、円滑な墓じまいを実現していただければと思います。