墓じまいは、今あるお墓を撤去して管理者に更地にして返還することです。お墓を参拝する親族の同意のもと行います。近年「墓じまい」の言葉を身近に感じるようになりました。その理由は、墓じまいを行う家庭が増えているからです。
本記事では、身近になる墓じまいの流れを解説します。「墓じまいってどのくらい費用がかかるの?」「墓じまいって世間的にはどんなイメージがあるの?」墓じまいの不安や疑問を解消して、納得できる理想の方法を選びましょう。
墓じまいとは|墓じまいが増加傾向にある3つの理由
墓じまいは、今あるお墓を撤去して管理者に更地にして返還します。お墓は墓地の管理者から一角を借りて所有します。そのため、墓じまいのゴールは管理者への返還になります。
墓じまいと同時に埋葬されていた遺骨を取り出します。遺骨は親族が責任を持って、新たな改葬先に移動させます。墓じまいと聞くとイメージが悪いかもしれませんが、故人の引っ越しと考えると分かりやすいです。
そして、故人の引っ越しと考えると墓じまいが増加傾向にある理由、価値観の変化も理解できます。どうしても世間体が気になるという方は、墓じまいが増加傾向にある理由を考えると良いです。
①少子高齢化や核家族化の流れ
墓じまいが増加傾向にある理由の一つは少子高齢化、核家族化の増加です。お墓は参拝することで故人への敬意を示します。敬意を示すためだけでなく、親族の心の拠り所でもあります。
そんなお墓の管理は決して容易ではありません。高齢化社会が進む日本では、年齢的な問題、体力的な問題で参拝が困難な方が増えます。
さらに、核家族化の問題が重なります。結婚を機に両家のお墓への参拝が必要となります。しかし、継承する子どもは少なく、維持は難しくなります。
そこで「できることならお墓は残したいけど、子どもへ負担はかけたくない」という気持ちから墓じまいを考えます。
②お墓に対する価値観の変化
お墓は先祖代々受け継ぐものという価値観は、年々変化します。先述したように「負担になる」と考える親が増加する中で、無理矢理お墓を維持するのも限界があります。また、子どものために残すという考えは子どもからすると迷惑であったりもします。お墓があることが迷惑というわけでなく、お墓を管理する負担が問題になります。
現代、供養方法は多岐にわたります。親族だけが安らかに眠るお墓にこだわらなくても、参拝しやすい方法はあります。そこで、お墓へのこだわりが薄れ、墓じまいを考える家庭が増えているのです。
③無縁墓がクローズアップされたことによる影響
墓じまいが増加傾向にある3つ目の理由は、放置されたことによる無緑墓の増加です。無緑墓は、継承者が途絶えたお墓を指します。そして今、お墓を維持することよりも墓じまいできなかったけど放置されるお墓が問題視されているのが現状です。
墓じまいを進めていたら、故人は新たな改葬先で安らかに眠ることができます。しかし、墓じまいを何らかの理由でできずに放置すると、お墓は荒れ、墓地の管理者は周辺の墓域への影響を考えなくてはいけなくなります。
しかし、対処したくても催促する相手がいなくては、無緑墓となり、強制撤去を行うしかありません。このようなお墓は増加しており、社会問題に発展しています。そしてメディアに取り上げられることとなり「今のうちに墓じまいをしておこう」と行動に移す家庭が増えたのも墓じまいが増加する理由の一つです。
「故人へ申し訳ないから墓じまいできない」「悪い印象があるから墓じまいできない」と考えるよりも、墓じまいは体力的にも精神的にも余裕があるうちに始めることが、故人の新たな改葬先を選択できる方法と考えるのが良いのかもしれません。
墓じまい完了までの流れ
墓じまいはお墓の撤去、そして新たな改葬先に遺骨を埋葬して完了です。墓じまいに必要な事務的な作業はもちろん、個々の気持ちを理解し合うことも必要なので、短期間で完了するわけではありません。
墓じまいが増加傾向にあることを首をかしげることなく納得できる親族もいれば「お墓は残すべき」と考える親族もいます。そのため、墓じまいをスタートさせるまでにも時間を要することを考えておきましょう。
親族間での話し合い・合意を得る
墓自体において「親族間での話し合い・合意を得ることは重要」です。お墓に対する思いは各々異なります。
維持費が負担になると言っても、維持費はなんとかすると言われると墓じまいはできません。中には費用が問題と言うと、罵倒する親族もいます。お墓への参拝が困難と言っても、子どもがいるんだからと子どもへの負担も考えての墓じまいを理解できない親族もいます。
墓じまいが増加傾向にあると言ってもお墓に対する思いは異なり、親族間での話し合いがスムーズに進むわけではないということは念頭に置いておきましょう。もちろん、多くの同意を得られることもありますが、墓じまいは心身的にも負担がかかることは考えておくと良いです。
管理者へ改葬の意志を伝える
墓じまいが決定したら、これまでお墓を管理していた管理者へ改葬の意思を伝えます。改葬は今ある遺骨を別の場所へ移動させることです。ここで、管理者から遺骨の移動を許可する「埋葬証明書」を発行してもらいます。
管理者へ改葬の意思を伝えるのは、家族間で話し合いが終わってすぐが良いです。急な改葬は管理者に不信感を与えます。お互い、気持ちよく改葬するためにも墓じまいが決定したら、すぐに管理者へ報告しましょう。
新しい納骨先を決定する
管理者へ改葬の意思を伝えたら、お墓を撤去した後の遺骨の納骨先を決定します。新しい納骨先は以下を参考にしてください。
新しい改葬方法 | 費用相場 |
---|---|
一般墓 | 墓地の大きさによって異なる |
納骨堂 | 30万円〜150万円 |
手元供養 | 3万円〜10万円 |
樹木葬 | 10万円〜100万円 |
散骨 | 5万円〜40万円 |
永代供養 | 5万円〜30万円 |
改葬許可証を取得する
遺骨の改葬は、今ある墓地所在地の自治体が発行する「改葬許可申請書」が必要です。
- 改葬許可申請書|改葬許可証発行のために必要事項に記載する書類
- 改葬許可証|遺骨を新しい改葬先に移すために必要な書類
改葬許可証は、墓地の管理者に発行してもらう埋葬証明書と改葬許可申請書を揃えて役所に申請すると発行されます。
閉眼供養と遺骨の取り出し管理者への返還
改葬許可証の発行後に行うのが、閉眼供養です。僧侶に依頼して行い、同時に遺骨を取り出します。地域によって「魂抜き」「お性根抜き」と呼ばれる場合もあります。
遺骨の取り出しが完了したら、お墓の撤去・解体工事が始まります。更地の状態にして、管理者に返還します。
新たな改葬先に遺骨を埋葬する
お墓を更地に戻して管理者へ返還したあと、取り出された遺骨を新しい改葬先に埋葬して墓じまいは完了です。改葬先によっては郵送が必要な場合もあるので、埋葬できるまで丁寧に行いましょう。
墓じまいにかかる費用
墓じまいには、一般的に以下の費用が必要です。
- 解体・撤去工事費
- 書類の交付費用
- 離檀料・お布施
- 新しい納骨先にかかる費用
解体・撤去工事費
墓じまいにかかる解体・撤去費用は1平方メートルあたり10万円程度が相場です。最終的な金額は以下の条件で異なります。
- 重機や運搬機が使用できるかどうか
- 墓域の広さ
- 墓石の大きさ、墓石の量
- 遺骨の数
- 作業日数
- 作業人数
複数の石材店に見積もりをとって、納得できる石材店を選びましょう。
書類の交付費用
墓じまいは、新たな改葬先への遺骨の埋葬で完了です。そのためには埋葬証明書や改葬許可証など書類の発行が必要になります。交付費用は自治体によって異なりますが、相場は数百円から1,000円です。自治体によって不要な書類もあります。墓じまいは安価な費用でできるものではないので、事前に必要書類を確認しておくと良いです。
離檀料・お布施
これまでお世話になった管理者に支払うのが離壇料です。お布施は閉眼供養を行う僧侶に支払う謝礼金です。いずれも相場目安は3万円〜ですが、離檀料においては義務ではありません。また、お布施も気持ちで包む謝礼金です。常識的に包むべきお金ですが、無理のない程度で親族と話し合うことが重要です。
新しい納骨先にかかる費用
新しい納骨先によって、初期費用は異なります。以下を参考に相場として目安にしてください。
新しい改葬方法 | 費用相場 |
---|---|
一般墓 | 墓地の大きさによって異なる |
納骨堂 | 30万円〜150万円 |
手元供養 | 3万円〜10万円 |
樹木葬 | 10万円〜100万円 |
散骨 | 5万円〜40万円 |
墓じまいは頻繁に行うものではなく、故人と触れ合える新しい環境を用意するために行います。新しい改葬方法によって費用に幅があります。最終的には意思を尊重できる子孫が納得のできる形で供養するのが理想と言えるでしょう。
墓じまいは後悔しない選択をしよう
墓じまいは、誰しも納得できるものではありません。お墓の前で手を合わせるとき、救われる気持ちになります。祈る気持ち、近況を報告したい気持ち、口には出せない何かを故人に語りかけられる時間です。その時間があるのは故人が眠るお墓があるからです。
しかし、お墓はあって当たり前の時代ではなくなりました。管理できない状態であれば、故人も別の居場所で子孫に会えた方が幸福でしょう。子孫に負担がかかるなら子孫の望むべき形に変わりたいでしょう。故人に甘えるわけではないけど、墓じまいを決めたなら納得のいくようにスムーズに進めることが故人のためでもあります。
墓じまいが増加傾向にあると言われる現代ですが、供養方法は個人の自由です。決まりのない中で世間体を気にすることはありません。形の変わった故人をどのように想うか、それはあなたが納得のできる方法が正解です。今ある幸せの中に故人と触れ合える時間を大切にしてください。