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デジタル遺産の相続対策|スマホの中の資産を家族に残す7ステップ
ネット銀行の預金も、ネット証券の株式も、デジタル遺産は原則として相続の対象になり得ます。問題は、通帳や郵便物といった「目に見える手がかり」がないため、家族が存在に気づけないまま相続手続きが進んでしまうことです。最初にすべきことは、パスワードを家族に教えることではありません。口座名・サービス名と公式の問い合わせ先を一覧にして、その保管場所を家族に伝えておくことです。この記事では、デジタル遺産の相続対策を7つのステップで、終活カウンセラー1級が解説します。
デジタル遺産とは?デジタル遺品との違い
「デジタル遺産」に、法律上の統一された定義はありません。この記事では、ネット銀行・ネット証券・暗号資産など、経済的な価値があり相続財産になり得るものをデジタル遺産と呼び、写真やSNSなども含む広い意味の「デジタル遺品」と区別して整理します。
| 呼び方 | 主な例 | 相続・死後の扱い |
|---|---|---|
| デジタル遺産 | ネット銀行・ネット証券・暗号資産・電子マネー残高など | 経済的価値があり、相続財産になり得る。遺産分割や相続税申告に関わる |
| デジタル遺品 | 写真・動画・メール・SNSアカウントなど(デジタル遺産を含む広い呼び方) | 資産と思い出・情報が混在。全体の整理が中心 |
| デジタル契約 | サブスク・アプリ課金・レンタルサーバーなど | 相続というより、契約の確認・解約・支払い停止が中心 |
注意したいのは、すべてのデジタル資産が家族に引き継げるわけではないことです。ポイントやマイル、購入した電子書籍・音楽などは、各サービスの利用規約によって承継の可否が異なります。「経済的価値がある=必ず相続できる」とは限らない、という前提を持っておいてください。
写真・SNS・サブスクを含むデジタル遺品全体の整理方法は、デジタル遺品の整理方法の記事で解説しています。この記事では「お金に関わるもの」に絞って掘り下げます。
デジタル遺産の相続で家族が困る5つのケース
国民生活センターも2024年11月20日に「今から考えておきたい『デジタル終活』-スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために-」という注意喚起を公表しています。遺された家族が典型的に困るのは、次の5つのケースです。
- スマホが開けず、利用していた金融機関が分からない——スマホは全デジタル資産への入口です。ロックが解除できないと、アプリやメールという手がかりそのものが見られません
- 紙の通帳や郵便物がなく、口座の存在を発見できない——ネット銀行・ネット証券は明細も電子交付が中心。家族が探す「モノ」がありません
- 暗号資産の取引所やウォレットが分からない——どこに口座があるか分からない、自分で管理するウォレットの秘密鍵が分からない、という二重の壁があります
- 相続財産の調査・申告のあとから資産が見つかる——遺産分割の話し合いや相続税の申告を終えたあとに口座が見つかると、手続きのやり直しの負担が生じ得ます
- ポイント・電子マネー・デジタルコンテンツの扱いがサービスごとに異なる——引き継げるもの、払い戻せるもの、消滅するものが混在し、1件ずつ規約と窓口の確認が必要になります
こう並べると不安になるかもしれませんが、裏を返せば、どのケースも「存在が分かる一覧」が生前にあれば負担を大きく減らせるものです。次の章から、その一覧の作り方を具体的に見ていきます。
相続対策として整理したいデジタル資産一覧
まず、対象になる資産の種類と、一覧に書いておきたい情報を整理します。
| 種類 | 具体例 | 一覧に記録する情報 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ネット銀行 | ネット専業銀行の普通・定期預金 | 銀行名・支店名・口座の種類、公式の問い合わせ先 | 通帳・郵便物がなく、家族が存在に気づきにくい |
| ネット証券・NISA | 株式・投資信託・NISA口座 | 証券会社名、NISA口座の有無 | 死亡後は相続手続きが必要。非課税のまま家族のNISAへは引き継げない |
| 暗号資産 | 取引所の口座、自分で管理するウォレット | 取引所名、ウォレットの有無と管理方法のヒント | 秘密鍵・シードフレーズそのものはノートに書かない |
| 電子マネー・コード決済 | 交通系IC、スマホ決済の残高 | サービス名、残高の有無 | 残高の払い戻し可否・手続きは規約により異なる |
| ポイント・マイル | 航空マイル、共通ポイント | サービス名 | 承継の可否は規約により異なる。「必ず引き継げる」とは限らない |
| ネット上の収入・その他 | フリマアプリの売上金、広告報酬、独自ドメイン・ウェブサイト | サービス名・用途、報酬の受取先 | 売上金には振込申請の期限があるサービスも。放置しない |
一覧に書くのは「存在と連絡先」まで
資産一覧に記録するのは、原則として次の項目です。
- サービス名・金融機関名
- 資産の種類(預金・株式・暗号資産など)
- 契約者名(本人以外の名義があればそれも)
- 登録しているメールアドレス
- 口座番号・顧客番号の一部など、本人確認の手がかりになる情報
- 公式の問い合わせ先(相続窓口・カスタマーサポート)
- 関連書類(契約時の書面・取引報告書など)の保管場所
- 死後に希望する対応(解約してほしい、家族に引き継いでほしい など)
手書きで整理したい方は、預貯金・証券・保険・デジタル情報の記入欄があるエンディングノートを選ぶと始めやすくなります。
デジタル項目に対応したエンディングノートを比較する →
家族が困らないデジタル遺産の生前整理7ステップ
ここからは、今日から実行できる手順です。1日で終わらせる必要はありません。1ステップずつ進めてください。
ステップ1. 利用サービスを棚卸しする
スマホのアプリ一覧、メールの受信箱(「取引報告書」「お知らせ」などで検索)、クレジットカードや銀行の明細を見ながら、お金に関わるサービスを書き出します。「見覚えのない引き落とし」も必ず正体を確認してください。
ステップ2. 「資産」「契約」「思い出・データ」の3つに分類する
書き出したものを、①資産(この記事の対象)、②契約(サブスクなど)、③思い出・データ(写真など)に分けます。②と③の整理はデジタル遺品の整理方法の記事に譲り、ここでは①に集中します。
ステップ3. 資産一覧にサービス名と問い合わせ情報を記録する
前の章の項目に沿って、一覧を作ります。紙のエンディングノートでも、印刷したメモでも構いません。完璧を目指さず、まず「サービス名だけ」でも十分です。名前さえ分かれば、家族は公式窓口にたどり着けます。
ステップ4. 一覧の保管場所を家族に伝える
どんなに良い一覧も、見つけてもらえなければ役に立ちません。中身を見せる必要はないので、「デジタル資産の一覧を作った。○○にしまってある」と存在と場所だけを家族に伝えてください。
ステップ5. AppleやGoogleの公式の承継機能を設定する
主要なサービスには、もしもの時に備える公式機能があります。
- Appleの「故人アカウント管理連絡先」——亡くなったあとにアカウント内のデータへのアクセスを申請できる人を、生前に指定しておく機能です。設定アプリの「サインインとセキュリティ」から追加でき、指定された家族は「アクセスキー」と死亡証明書によりAppleへ申請します
- Googleの「アカウント無効化管理ツール」——一定期間アカウントの利用がない場合に、指定した相手への通知やデータ共有、アカウントの削除を事前に設定できる機能です
ここで大切なのは、Apple Accountのパスワードやスマホのパスコードを人に教えておく方法は、Appleが公式に案内するセキュリティの考え方(パスワードや確認コードを誰とも共有しない)と合わないということです。パスワードの共有ではなく、こうした公式機能を優先してください。設定手順の詳細は、記事末の参考情報にあるApple・Googleの公式ページで確認できます。
ステップ6. 財産の分け方に希望があれば、遺言書と専門家相談を検討する
資産一覧は「見つけてもらう」ための道具で、誰に何を渡すかを決める効力はありません。分け方に希望がある場合は遺言書の作成を検討し、資産や家族関係が複雑な場合は専門家に相談してください(詳しくは次の章で解説します)。
ステップ7. 年1回、そして機種変更・口座開設のたびに一覧を更新する
デジタル資産は入れ替わりが早いのが特徴です。誕生日やお正月など年1回の見直しに加えて、スマホの機種変更や新しい口座の開設をしたときに、その場で一覧に1行足す習慣をつけると、一覧が古びません。
エンディングノートと遺言書はどう使い分ける?
デジタル遺産の対策では、この2つの道具の役割の違いを知っておくと迷いません。
| 項目 | エンディングノート | 遺言書 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 資産の存在や保管場所を家族へ伝える | 財産の分け方などについて法的な意思を残す |
| 法的効力 | 原則としてない | ある(法律上の形式要件を満たす必要がある) |
| 書き直し | 何度でも手軽に更新できる | 方式に沿った作り直し・訂正が必要 |
| 向いていること | デジタル資産の一覧・連絡先・希望のメモ | 誰にどの財産を渡すかの指定 |
ひとことで言えば、「資産の場所はエンディングノート、分け方は遺言書」という分担です。ただし、この2つを用意すればすべてのケースに対応できるとは限りません。自筆の遺言書を法務局に預けられる「自筆証書遺言書保管制度」(保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要)という公的制度もあります。種類や費用は遺言書の種類と費用の記事で解説しています。
不動産、暗号資産、事業資産、再婚などが関係する場合は、一般的な記入例だけでは判断できないことがあります。まずは相談先の違いを確認してみてください。
司法書士・行政書士・弁護士の違いと相談先を見る →
家族が亡くなった後にデジタル資産を探す場合
この記事を「遺族の立場」で読んでいる方は、まず次の初動を押さえてください。
- スマホやパソコンを初期化・処分しない——中の情報が資産発見の最大の手がかりです。解約前に写真などのデータの扱いも決めましょう
- 紙の手がかりを集める——郵便物、メールのお知らせ、クレジットカード・銀行の明細、確定申告の控えから、取引先を洗い出します
- 本人のIDやパスワードで勝手に送金・売却しない——規約違反や法律に触れるおそれがあり、相続人同士のトラブルにもつながります
- 見つけた金融機関・サービスの公式相続窓口へ連絡する——証券口座などは死亡の連絡後、所定の相続手続きに進みます
- 判断が難しいものは早めに専門家へ——暗号資産の扱い、相続税、相続放棄(期限があります)などは、税理士・弁護士・司法書士の領域です
個別サービスの手続きや必要書類は変更されることがあるため、必ず各社の公式情報を確認してください。相続手続き全体の流れと期限は、相続手続きの流れとやることリストの記事で時期別に整理しています。
よくあるご質問
Q1. デジタル遺産も相続財産になりますか?
ネット銀行の預金やネット証券の株式・投資信託、暗号資産などの経済的価値のある資産は、相続財産として遺産分割や相続税申告の対象になり得ます。一方、ポイントやマイル、購入した電子書籍・音楽などは、利用規約によって引き継げるかどうかが異なります。個別の判断は各サービスや税理士などの専門家にご確認ください。
Q2. エンディングノートにスマホのパスコードを書いてもよいですか?
そのまま書き込むことはおすすめしません。ノートの紛失や盗み見のリスクがあるためです。ノートには「パスコードの控えは○○に保管」のように保管場所だけを書き、控え自体は封をした封筒などで別に保管すると、リスクを減らせます。詳しくは、エンディングノートに書いてはいけないことの記事で解説しています。
Q3. NISAやネット証券の口座は家族がそのまま使えますか?
そのまま使い続けることはできません。名義人が亡くなったら証券会社へ連絡し、所定の相続手続きが必要になります。NISA口座の資産を非課税のまま相続人のNISA口座へ引き継ぐことはできず、一般に相続人の課税口座へ移される扱いとされています。手続きの詳細は各証券会社にご確認ください。
Q4. 暗号資産を家族に残すには何を準備すべきですか?
まず、利用している取引所名と公式の問い合わせ先を資産一覧に記録し、家族が存在に気づける状態を作ってください。国内の暗号資産取引所には相続手続きの窓口が用意されていることが一般的です。一方、自分で秘密鍵やシードフレーズを管理するウォレットは、それらが分からないと取り出せなくなるおそれがあります。管理方法を含めて、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
Q5. デジタル遺産の相談は誰にすればよいですか?
内容によって相談先が変わります。個々の口座やサービスの手続きはその会社の公式相続窓口へ、相続税のことは税理士や税務署へ、遺産分割で意見が合わない場合は弁護士へ、という分担が基本です。誰に頼めばよいか迷う場合は、士業ごとの違いをまとめた専門家相談の記事も参考にしてください。
まとめ
- 最初の一歩は、保有しているサービスと資産の「一覧化」。サービス名が分かるだけで家族は公式窓口にたどり着ける
- パスワードの共有ではなく、Apple・Googleなどの公式の承継機能と、問い合わせ先の整理を優先する
- 資産の「場所」はエンディングノートで伝え、「分け方」は遺言書で検討する。複雑な場合は専門家へ