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執筆・監修:終活カウンセラー1級

遺言書はお金持ちだけのもの?一般家庭でも準備を考えたい5つのケース

結論:遺言書が必要かどうかを決めるのは、財産の「金額」ではなく、「誰が相続人になるか」と「分けにくい財産があるか」です。「うちは財産なんてないから関係ない」——終活のご相談で、いちばんよく聞く言葉です。けれども実際には、預貯金が多くないご家庭ほど「自宅しかなくて分けられない」という形で話がまとまりにくくなることがあります。この記事では、一般家庭でも遺言書の準備を考えたい5つのケースと、遺言書を書く前にできる3つの準備、そして法務局の自筆証書遺言書保管制度を、公的機関の情報を確認しながら整理しました。

はじめにご注意:本記事は一般的な情報の整理であり、法律・税務のアドバイスではありません。相続人の範囲、遺留分、税額などの判断はご家庭の事情によって異なります。個別の判断は、司法書士・行政書士・弁護士・税理士などの専門家にご確認ください。

「遺言書=お金持ちのもの」と思われがちな理由

遺言書というと、多くの方が「相続税がかかるほどの資産がある人が書くもの」というイメージを持っています。テレビドラマで見る遺言書の場面も、たいてい大きな資産をめぐるものです。

ただ、遺言書が働く場面は「税金」ではなく「分け方」です。相続税がかからないご家庭でも、財産を誰にどう渡すかという話し合い(遺産分割協議)は必要になります。そして、この話し合いは相続人全員の合意がそろわないと成立しません。人数が多い、疎遠、遠方に住んでいる、分けにくい財産が中心——こうした条件は、財産の大小とは無関係に起こります。

つまり、判断の軸は次の2つです。

なお、遺言書があれば必ず争いを防げる、というものではありません。書き方や内容によっては、かえって不満が残ることもあります。「あれば安心」ではなく「自分のケースに必要かを確かめる」という順番で考えるのが現実的です。

一般家庭でも遺言書を検討したい5つのケース

ご相談の現場で「遺言書を考えてもよいかもしれません」とお伝えすることが多いのは、次の5つのケースです。ひとつでも当てはまる場合は、金額の多い少ないにかかわらず、一度専門家に相談する価値があります。

  1. 子どもがいないご夫婦

    起こりやすいこと:配偶者だけが相続人になるとは限らず、亡くなった方の親や兄弟姉妹(すでに亡くなっている場合はその子)が相続人に加わることがあります。

    普段ほとんど行き来のない親族と、自宅や預貯金の分け方を話し合うことになる場合があります。「自宅は配偶者にそのまま残したい」という希望がある場合は、遺言書で意思をはっきり示しておく意味が大きいケースです。

    なお、相続人の範囲や遺留分(一定の相続人に保障される取り分)の扱いは、家族構成によって変わります。ご自身のケースでどうなるかは専門家にご確認ください。

  2. 再婚していて、前の配偶者との間にお子さんがいる

    起こりやすいこと:今の配偶者と、前の配偶者との間のお子さんが、同じ手続きの当事者になります。

    面識がほとんどないまま、全員の署名・押印が必要な話し合いを進めることになりがちです。連絡先が分からないところから始まる場合もあります。誰に何を残すかを本人が示しておくことで、残された方の負担を減らせる可能性があります。

  3. 財産の大半が自宅(分けにくい財産が中心)

    起こりやすいこと:「分ける」ためには売るしかない、という状況が生まれます。

    預貯金が少なく自宅が中心のご家庭では、同居していた家族が住み続けたいのに、他の相続人の取り分をどう用意するかという問題が起こりがちです。実家をどうするかの希望がある場合は、元気なうちに意思を残しておくと、家族が判断しやすくなります。

  4. 法定相続人以外の人に、何かを残したい

    起こりやすいこと:気持ちだけでは財産は渡りません。

    長く介護をしてくれた子の配偶者、内縁のパートナー、お世話になった友人、支援したい団体——こうした相手は、原則として法律上の相続人ではありません。財産を渡す意思を法的な形で残せるのは遺言書で、エンディングノートに書いただけでは同じ効果は生じません。この点はエンディングノートと遺言書の違いの記事で詳しく解説しています。

  5. 相続人が多い、疎遠、または遠方・海外にいる

    起こりやすいこと:話し合いそのものが物理的に進みません。

    相続人が兄弟姉妹やその子まで広がると、人数が増えて連絡だけで数か月かかることもあります。海外在住の方がいる場合は、必要書類の準備にも時間がかかります。「もめている」わけではなくても、手続きが止まってしまうのはよくあることです。

当てはまらなかった方へ:5つのどれにも当てはまらないなら、いま急いで遺言書を作る必要はないかもしれません。その場合でも、次の「3つの準備」は家族の負担を確実に減らします。

遺言書を書く前にできる3つの準備

遺言書は、書く前の準備で内容の精度が大きく変わります。また、遺言書を作らない場合でも、この3つだけで家族が探し回る時間はかなり減ります。

準備1. 財産の一覧をつくる(金額より「ありか」)

まずは、どこに何があるかを1枚に書き出します。金額を正確に書く必要はありません。銀行名・支店名、加入している保険の会社名、証券口座の有無、不動産の場所、借入やローンの有無——「ありか」が分かれば、家族は調べにいけます。ネット銀行やネット証券は通帳が届かないため、存在を書き残すことが特に大切です(デジタル遺品の整理の記事)。

準備2. 保管場所を家族に伝える

せっかく作った書類も、家族が見つけられなければ使われません。通帳・印鑑・保険証券・権利証をどこにしまっているか、そして遺言書やエンディングノートを作ったならその保管場所を、少なくとも1人には伝えておきます。親御さんに聞いておきたいことは親が元気なうちに聞いておくこと30項目にまとめています。

準備3. 「気持ち」はノート、「財産の分け方」は遺言書と分ける

エンディングノートには、原則として法的な効力はありません。逆に、遺言書に長い思いを書き連ねると、要点が読み取りにくくなることがあります。情報と気持ちはエンディングノート、財産の分け方は遺言書と役割を分けるのがおすすめです。書き方はエンディングノートの書き方完全ガイド、遺言書の種類と費用の比較は遺言書の種類と費用の記事をご覧ください。

自筆証書遺言書保管制度(法務局)とは

自分で書いた遺言書(自筆証書遺言)を、法務局(遺言書保管所)に預けられる制度です。「手軽に作れるが、なくす・見つけてもらえない・書き替えられるかもしれない」という自筆証書遺言の弱点を補う仕組みで、一般家庭にとって現実的な選択肢のひとつです。

この制度でできること

申請の手順と手数料

預けるには「様式」を守る必要があります

保管制度を使う場合、遺言書はA4サイズで、余白(上5mm・下10mm・左20mm・右5mm)を確保し、片面のみに記載します。複数ページでもホチキス等で綴じず、各ページにページ番号を記載し、封筒は不要です。財産目録は、パソコンで作成したり通帳のコピー等を添付する方法も認められていますが、その全ページに署名押印が必要です。

制度でカバーされないこと

ここが最も大切な注意点です。法務省は「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と明記しています。預かってもらえたことと、内容が意図どおりに機能することは別の話です。内容に不安がある場合や、上の5つのケースに当てはまる場合は、専門家に内容を確認してもらうことを検討してください。

この節の内容は、法務省「自筆証書遺言書保管制度」の各ページ(制度の概要・遺言者の手続・様式・手数料・通知)にもとづいています(2026年8月10日確認)。手数料や取扱いは変更されることがありますので、実際の手続き前に最新の案内をご確認ください。出典URLは記事末尾に記載しています。

準備状況チェックリスト

いま何ができていて、何が空白かを確かめるためのリストです。すべてに印がつく必要はありません。

チェックが「財産の書き出し」で止まってしまう方は、終活全体の進め方をまとめた終活チェックリスト完全版(印刷用PDFつき)から始めると進めやすくなります。

よくあるご質問

Q1. 財産が多くない一般家庭でも、遺言書は必要ですか?

すべての家庭に必要というものではありません。ただし、必要かどうかを決めるのは金額の大きさだけではなく、「誰が相続人になるか」と「分けにくい財産があるか」です。子どものいない夫婦、再婚して前の配偶者との間にお子さんがいる場合、財産の大半が自宅、といったケースでは、財産の総額にかかわらず検討する価値があります。ご自身のケースに当てはまるかどうかの判断は、司法書士・行政書士・弁護士などの専門家にご確認ください。

Q2. エンディングノートを書いてあれば、遺言書は書かなくてよいですか?

役割が異なります。エンディングノートは、連絡先や保管場所、希望を家族に伝えるためのもので、原則として法的な効力はありません。財産の分け方など法的な意思表示が必要な内容は、遺言書の役割です。「情報と気持ちはノート、財産の分け方は遺言書」と分けて考えると整理しやすくなります。

Q3. 法務局の保管制度を使えば、遺言書が無効になる心配はなくなりますか?

いいえ。法務省は「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と明記しています。保管制度で得られるのは、紛失・改ざんを防げること、相続開始後に家庭裁判所の検認が不要になることなどです。内容が意図どおりに機能するかどうかは別の問題ですので、内容に不安がある場合は専門家にご相談ください。

まとめ

  • 遺言書の要否は「金額」ではなく「誰が相続人になるか」「分けにくい財産があるか」で考える
  • 子どものいない夫婦/再婚/自宅が中心/相続人以外に残したい/相続人が多い・疎遠、の5つは検討の価値が大きい
  • 書く前に、財産の「ありか」の一覧・保管場所の共有・ノートと遺言書の役割分け、の3つを進める
  • 自筆で作るなら法務局の保管制度(1通3,900円)が選択肢。ただし内容の有効性は保証されない
  • 自分のケースで何が必要かは、専門家への相談で確かめるのが近道

自分のケースを一度、専門家に確認してみませんか

「うちは遺言書がいるのか、いらないのか」は、家族構成と財産の中身が分かれば、専門家なら比較的短時間で見当をつけられます。初回無料で相談を受け付けている司法書士・行政書士の事務所もありますので、まずは相談先の選び方を知ることから始めてみてください。

遺言書の相談先を比較して選ぶ司法書士・行政書士の無料相談サービスの探し方

出典・参考

本記事の制度・手数料に関する記述は、次の一次情報にもとづいています(いずれも2026年8月10日確認)。制度の運用や金額は変更されることがあります。手続きの前に必ず最新の案内をご確認ください。

この記事について

執筆・監修:はじめての終活ガイド運営者(終活カウンセラー1級)。制度に関する記述は上記の公的機関の情報を確認のうえ作成しています。本記事は一般的な情報提供であり、法律・税務の個別の判断を行うものではありません。相続人の範囲、遺留分、相続税の有無や金額は、ご家庭の事情によって結論が変わります。実際の判断は、司法書士・行政書士・弁護士・税理士など、それぞれの専門家にご相談ください。